アートを経営する_vol.2「文化芸術基本法」【アートと法律】

ART

はじめに

「アートを経営する」シリーズとは?

本コンテンツ「アートを経営する」シリーズは、

2016年から文化政策に携わってきた筆者が、

実際に得てきた知識を筆者なりにまとめたものとなっています。

アートと社会がよりつながっていく時代を築くために、
得てきた知識をコンテンツとしてまとめるとともに
これを深めて、掘り下げていくことで、
社会におけるアートの可能性を追求していこう、という試みです。

どんな内容を掲載していくのか?

基本的には、

  • 法令や計画などといった総論に関すること
  • 学説や論文など学術的な内容に関すること
  • 実際の事例や、マーケティング、ファンドレイジングなど具体的な取り組みにかんすること

を想定しています。

つまり、筆者の琴線に触れた内容であればなんでも掲載していきます(笑)

なお、本コンテンツは各種参考資料を踏まえ、可能な限り精度の高い内容となるよう制作しておりますが、あくまでも、筆者個人の見解でまとめたものとなっておりますことを、あらかじめご了承ください。

今回のテーマ:文化芸術基本法

文化政策に関する法律の中でも、主要な法律は

  • 文化芸術基本法(旧:文化芸術振興基本法)
  • 劇場・音楽堂等の活性化に関する法律(劇場法)
  • 文化財保護法

前回の記事で、こういうお話をしてきました。

※詳しくは、以下の記事をご覧ください。

【アートマネジメントとは】アートを経営する_vol.1「文化政策ってそもそもなに?」

今回は、その中でも、特に基本的な

文化芸術基本法

について、お伝えしたいと思います。

なぜ、法律がつくられたのか?

もともと政治は、文化・芸術と距離を置いていた

そもそも、第二次世界大戦後、文化・芸術に対する国の姿勢は消極的でした。
それまで、言論統制や表現の規制といった、いわゆる文化統制的な状態を作り出していたことの反省があったという背景があります。

経済成長に伴う、文化・芸術の再興

しかし、高度経済成長期を経て、民間による商業公演が制作されるようになったり、文化・芸術に対する支援活動を行う、企業メセナといった活動が活発になっていったりしました。
また、全国各地に、ホールや劇場、博物館、美術館といった文化施設が次々に開館していくことにもなりました。

地方自治体も動き始めた

こういった中で、地方自治体においても、

文化・芸術に対してどういう姿勢を取るのか

これを示すための文化条例が、各地でつくられるようになっていきました。

可視化し始めた、文化・芸術の力

その最中、阪神・淡路大震災が起こりました。

たくさんの「かけがえのないもの」を失ってしまった人々の支えに少しでもなろうと、

全国各地で、チャリティーコンサートや、ボランティアによるアート活動が盛んにおこなわれることになりました。

阪神・淡路大震災 + クリエイティブ マッピング プロジェクト

これらの動きが全国的に出てきたことにより、

文化・芸術が、困難なときこそ必要とされる重要なものとの認識が広がっていったのです。

こうした流れの中で、文化・芸術が持つ力が徐々に浸透していくと同時に

文化・芸術に対する国としての姿勢を示すべきという機運が高まってきたといえるでしょう。

この流れを受けて、超党派の議員による議員立法という形で、

2001年に文化芸術振興基本法が制定されました。

実は、すでに “ver.2.0” なんです

そう、最初に制定されたのは、2001年のことでした。

この法律は、2017年に、文化芸術基本法として改正されました。

最も大きな違い ~「振興」から「推進」へ~

この改正における、最も大きなポイントをここから説明します。

2001年の文化芸術振興基本法(以下、旧法)の特徴を簡単に言うと、

 

旧法さん
旧法さん

国民の生活が心豊かになり、地域がより活力が湧いてくることを実現するために、

国は、文化・芸術が盛んになる取り組みをしないといけませんよ

 

ということを、旧法は求めていました。

例えば、

 

旧法さん
旧法さん

国は、

  • 文化芸術の鑑賞・参加・創造の環境を整備しましょう
  • 芸術家等の自主性・創造性を尊重しましょう
  • 17の基本的施策を展開しましょう

地方自治体も、これにならって、できそうな施策は打ってみましょう

 

簡単に言うと、こういうことを求めていました。

それが、2017年に改正された文化芸術基本法(以下、新法)では、

 

新法さん
新法さん

旧法さんが仰ってる取り組みは引き続き進めてほしいけど、
ちょっとそれだけでは足りない時代になってきたよね。

これに加えて、

様々な分野と連携して、文化・芸術の力を活かす仕組みを整えていってください。

 

ということを、求めるようになったのです。

その条文がこちらです。

第2条第10項
文化芸術に関する施策の推進に当たっては,文化芸術により生み出される様々な価値を文化芸術の継承,発展及び創造に活用することが重要であることに鑑み,文化芸術の固有の意義と価値を尊重しつつ,観光,まちづくり,国際交流,福祉,教育,産業その他の各関連分野における施策との有機的な連携が図られるよう配慮されなければならない。
文化芸術基本法|文化庁

つまり、

文化・芸術そのものを振興させていくことに加えて、
文化・芸術の力を様々な社会分野で活かすことを推進していく

という方向性に変わっているということです。

何がどう変わったのか?

では、旧法から新法に改正され、具体的に何がどう変わったのか

これをまとめていきたいと思います。

文化・芸術を享受する権利をより明確に定めた

旧法では、

旧法さん
旧法さん

国民が居住する地域に関わらず、等しく、文化芸術を鑑賞・参加・創造できる環境を整備をしなければなりませんよ

となっていましたが、新法では

新法さん
新法さん

住む場所だけじゃなく、年齢,障害の有無,経済的な状況にも関わらず、文化芸術を鑑賞・参加・創造できる環境を整備をしなければなりませんよ

というように変わったのです。

その条文がこちらです。

第2条第3項
文化芸術に関する施策の推進に当たっては,文化芸術を創造し,享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み,国民がその年齢,障害の有無,経済的な状況又は居住する地域にかかわらず等しく,文化芸術を鑑賞し,これに参加し,又はこれを創造することができるような環境の整備が図られなければならない。
文化芸術基本法|文化庁

「当たり前じゃない?」

と思うかもしれませんが、これが法律として明文化することに意味があります。

具体的に政策を打っていくための根拠になるためです。

実際に、文化芸術基本法の改正からほぼ1年後に、

障害者による文化芸術活動の推進に関する法律

という法律が制定されています。

新法の改正を受けての取り組みの一つと言えるかと思います。

障害者による文化芸術活動の推進に関する法律の施行について(通知)|文化庁

基本的施策の拡充

旧法から継承されている、27の基本的施策の中身が拡充されてます。

いくつかあるのですが、ここでは一例だけ紹介します。

第12条
国は,生活文化(茶道,華道,書道,食文化その他の生活に係る文化をいう。)の振興を図るとともに,国民娯楽(囲碁,将棋その他の国民的娯楽をいう。)並びに出版物及びレコード等の普及を図るため,これらに関する活動への支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
文化芸術基本法|文化庁

生活文化とは、法律上では

茶道・華道・書道などを指します。

旧法では、生活文化を『普及』すると示してましたが、

新法では、生活文化の『振興』となりました。

さらに、生活文化に新たな仲間「食文化」が加わりました。

「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました!|農林水産省

日本の食文化「和食」も含めて、

日本ならではの生活文化を今まで以上にもっと盛り上げていきましょう

という、法律の趣旨がここから読み取れるかと思います。

文化芸術推進基本計画の策定

旧法では、国が、文化芸術の振興に関する基本的な方針を出す義務がありました。

新法では、「文化芸術に関する施策に関する基本的な計画」を出す義務が生じるようになりました。

方針と計画の違いは、

方針は「言葉」で表し、計画は「数値」で表す、と考えてもらえるといいのかなと思います。

今回の計画では、6つの戦略それぞれに指標が設定されています。

方針ではなく、計画になったことで、

新法さん
新法さん

数値でちゃんと評価して、実効性ある文化政策に取り組んでくださいよ

と、法律が求めていることが読み取れます。

この「文化芸術に関する施策に関する基本的な計画」ですが、

都道府県や区市町村(地方自治体)でも、この計画を策定する努力義務が定められました。(地方文化芸術推進基本計画

新法さん
新法さん

地方自治体も、絶対やれとは言わないけど、計画立てれるなら立てて実行していってね

そういうイメージです。

まとめ

  • 第二次世界大戦から高度経済成長期、阪神・淡路大震災を経て、社会における文化・芸術の認識が大きく変わっていった。
  • 文化・芸術をいかに振興していくか、その姿勢を法律で示すこととなったのが、2001年に制定された文化芸術振興基本法である。
  • そこから社会情勢が大きく変わっていくにつれて、現在の社会において、文化・芸術とどう向き合うのかを示したのが、2017年に改正された文化芸術基本法である。
  • もっとも重要なポイントは、文化・芸術そのものを盛り上げる(振興する)だけでなく、様々な社会分野とつながり、文化・芸術の力を活かす(推進する)ことが加わったこと。
  • 文化・芸術を享受する権利の具体化、基本的施策の拡充、計画の策定など、より実行性のある文化政策が必要だと定められた。

いかがでしたか?

全てはご紹介できませんでしたが、

「全国的な文化政策の流れがどうなっているのか」

このことが、法律から読み取れたかと思います。

今回は、これで以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事を読んだあなたの人生が、
少しでも豊かになりますように。

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